午前五時の殺風景

表染という、ミステリとホラーを好む社会人が書いています。日々言葉が死んでいく。

白井智之全作レビュー (単行本10作記念)

白井智之の単行本がキリよく十冊を迎えた。
おめでとうございます!

一ファンとして、2014年のデビューから8年が過ぎ、これだけの本が出た事が本当に嬉しい。毎年コンスタントのに新作が出ていることは追いかけている身としても楽しいし、クオリティが落ちることがなくむしろ高くなっているから次回作への期待と安心が常にある。本当にありがたいこと。

というわけで、今回は白井智之の単行本について、変遷もぼんやりと辿りながら振り返っていきたい。偉そうに書く部分が多いとは思うが、私はぺーぺーの社会人であり書評家でもなんでもないので、そこは前提としてご了承いただきたい。
先に謝っておく、ごめんなさい。
(あと、事前知識を何も入れたくない方は当然だがこんな記事読まないほうがいい。)

白井智之作品はどれから読んでも問題ないので、興味を惹かれるものがあれば是非。
あらすじは全てAmazonから引用。
ネタバレは無いのでご安心を。


【初期三部作】

まずはデビューしてからの三作について。

『人間の顔は食べづらい』『東京結合人間』『おやすみ人面瘡』は、角川から出版されている。作者が明言し始めたわけではないが、まとめて人間シリーズとも呼ばれている。(2018年のこのミスでは、作者自身もこの呼び方を使用している。)人体にまつわる特殊設定を用いており、この三作がそれぞれ人間の三大欲求である食欲、性欲、睡眠欲を表している。

ちなみに若林踏氏との対談では『初期三部作』という夏目漱石作品のような呼び名をしていた。
出版社が同じであること、三大欲求の括りができること、すべて長編であること、また四作目では短編集となる上に趣向が異なる話も含まれていることから、この三作は括って語るべきだろう。

話自体に繋がりはないので、どれから読んでも良し。迷うのであれば、刊行順を勧める。


人間の顔は食べづらい

「お客さんに届くのは『首なし死体』ってわけ」。安全な食料の確保のため、“食用クローン人間”が育てられている日本。クローン施設で働く和志は、育てた人間の首を切り落として発送する業務に就いていた。ある日、首なしで出荷したはずのクローン人間の商品ケースから、生首が発見される事件が起きて―。異形の世界で展開される、ロジカルな推理劇の行方は!?横溝賞史上最大の“問題作”、禁断の文庫化!

冒頭では食用クローンの経緯をかなりスピーディーに語り、和志の施設での様子や彼が隠れて行っている違法行為に焦点が移る。
……のだが、それ以降が息も付かせぬ怒涛の展開。世界観から倫理が喪失しているせいで、殴る蹴るなんて序の口であり、1ページめくった先で何が起こるかわからないほど混沌を極めている。無慈悲の塊。
飴村行の『粘膜人間』を思い出す世界観だ。

しかしその一方で、登場人物達は冷静で推理力に長けており、揃っている現場の材料から何度も推理を生成する。さっきまで暴力を振るっていたような奴らも、ふと冷静になった途端証拠に基づいた推理を述べる。このギャップがたまらない。グロい皮を被った本格ミステリであることに気付いた瞬間の快感たるや。

後半の作品に比べると伏線の貼り方や推理に少々粗があるようにも見えるが、これでデビュー作なのだから恐るべし。有栖川有栖氏と道尾秀介氏から推薦されたのも納得の一冊。


東京結合人間

男と女が互いの身体を結合させ、結合人間となって特殊な生殖を行う世界。この結合の過程でときおり、一切嘘がつけない結合人間=オネストマンが生まれる。オネストマンの圷はある日、高額な求人に目をとめる。オネストマン7人の共同生活を撮影する映画の出演者を募集するというのだ。報酬目当てで参加した圷は、他の参加者たちと孤島に向かう。しかし、撮影クルーは海上で姿を消し、オネストマン7人だけで一夜を明かした翌朝、孤島の住人親子が死体で発見された。容疑者7人は嘘をつけないはずだが、なぜか全員が犯行を否定。圷は推理を試みるが、新たな犠牲者が出てしまい―。

と書いてあるけれども、このあらすじの内容に入るまでが長い。故に序盤をくどく感じる人もいるかもしれない。(性癖にハマれば大丈夫だとは思う。)
そして登場人物のうち数名は殺されるために出てきたかのような無慈悲な扱いを受ける。これについては作者も「話がつまらないかもしれないと不安になるとすぐに人を殺してしまう時期があった」と述べていたので、あながち間違ってはいないと思う。ただ、白井智之は真っ当な現世にいるような人間を書こうとはしていないだろうから、「人間が描けていない!」という批判は無意味。

繰り広げられる推理はロジック色が強く、何が真実か分からないほど論理に補強された推理が次々と出てくる。そして謎解きは勿論だが、ストーリーも目まぐるしく展開し、全てが繋がった時に感動すること間違いなし。謎解きが淡々と進むだけではなく、登場人物達の物語も上手く進んでいる点で、前作よりもパワーアップしたように思える。

加えて特殊設定度合いもなかなか過激に
男女が性行為をしたら目が四つ、足が四本、手が四本の化け物が出来上がるのだから。その上嘘がつけないオネストマンなんて。ラーメンに寿司と天丼がついてくるわんぱくセットと同じものを感じる。
それでも読み終えれば、すべてこの推理のために構築された世界だったのだと納得できるはずだ。

ちなみに1ページ目から性行為をしているので、瞬時に読者をふるいにかけることができる。「白井智之って怖い本が多そうで、なんだか心配」と思っている方は、とりあえずこれを読み判断してみるのもいいかもしれない。


おやすみ人面瘡

全身に“脳瘤”と呼ばれる“顔”が発症する奇病“人瘤病”が蔓延した日本。人瘤病患者は「間引かれる人」を意味する「人間」という蔑称で呼ばれ、その処遇は日本全土で大きな問題となっていた。そんな中、かつて人瘤病の感染爆発が起きた海晴市で、殺人事件が起きる。墓地の管理施設で人瘤病患者の顔が潰され、地下室では少女が全身を殴打され殺されていたのだ。容疑者は4人の中学生。さらに、事件の真相を見抜いた男は、逆上した容疑者のひとりに突き飛ばされ、机の角で頭を打って死亡してしまった…かと思いきや、死んだはずの男の身体に発症した、いくつもの“顔”が喋り始め―。同じ手がかりから組み上げられる幾通りもの推理の先に、予想を超える真相が待つ。唯一無二の本格推理。

完全な余談だが、実は『人間の顔〜』はコロナウイルスにより食糧危機になった世界を描いており、『東京〜』はTERADA HOUSEという番組関係者の事件を描いている。偶然にも現実で起こった事件を未来予知するようにリンクしているのだが、仙台で奇病は発生しなかったのでご安心を。

閑話休題

白井智之の作品に真っ当な人間はほぼ出てこないが、愛を持った人間は頻繁に出てくる。とりわけこの『おやすみ人面瘡』は、愛に溢れた作品だと思う。

人間ヘルスと中学校の二つのシーンを交互に描くように、話は展開していく。クラスメイト思いの中学生、妹思いのヘルス店員など、心温まる関係が多くあり、それと反して描かれる残虐シーンは、事件の凄惨さをより引き立てている。

しかしやはり、メインは多重解決。白井作品の中でも、かなり多重解決に重きが置かれている作品だ。二転三転する真実から目が離せない。
結末には、「どこまでやる気なんだ」と思わずため息が漏れるだろう。流石は、好みが分かれる激しい内容にも関わらず、本格ミステリ・ベスト10で5位を叩き出した名作である。

再度余談だが、この話の舞台は仙台をベースとしている。勾当台公園やら、クリスマス時期のイルミネーションやら、広瀬川やら、国分町やら、モチーフとなっている場所が多くある。読了後、この本片手に仙台クリスマス観光をするのもおすすめだ。
大事件に思いを馳せるいい旅となるだろう。


【中期過激派】

この時期はタイトルも内容も飛び抜けて過激なものになっていたように感じる。

『少女を殺す100の方法』は帯の文言「14歳の少女は殺したいほどかわいい」に対してプチ炎上(?)が起こり、『お前の彼女は二階で茹で死に』は単行本表紙が意味深にグロテスクに見えてしまい本格ミステリベストでも話題になり、『そして誰も死ななかった』は平和すぎるタイトルのあまり「絶対嘘だ」と誰もが思った。
しかし過激とは言いながらも、実は理詰めにも拍車がかかっている時期なので、ここは嫌煙せずに楽しんでいただきたいところ。

(ただ、やはりとりわけ読む人を選ぶ内容であることは否めない。グロ云々というよりも、コテコテの推理についていけない人が多いかもしれない。ミステリを普段読まない人が手に取るのはかなり高度に思えるので、そういう方にはこの後に出てくる『名探偵のはらわた』以降の作品から手に取るのをおすすめする。)

そういえばこの時期から、洋画ホラーの雰囲気が増しているように思う。凄惨なシーンが無感情に淡々と描かれている様は、アメリカのとんでも設定のホラー映画に似ている。『SAW』『ファイナル・デスティネーション』『死霊のはらわたなんかが好きな方は、きっとここらの世界観も愛せるはず。


少女を殺す100の方法

「死んでる? 誰が?」「みんなです」とある女子中学校で二年A組の生徒全員が殺された。教頭のクサカベは警察より先に犯人を見つけ出そうとするが……。(「少女教室」) ミロが夏休みを過ごすことになったウラ地区では、年に一度、空から少女が降ってくるという……。(「少女が町に降ってくる」) グロテスクなのにロジカル。本格ミステリ界の鬼才が贈る「少女の大量死」全8編!

グロあり、バカミスあり、デスゲームありの楽しい短編集。デビュー前に書いていた作品もあり、中身はかなり幅が広くなっている。
本来は短編が5つ入っているのだが、文庫版にはショートショート3つが追加されている。そのため、折角手に取るなら文庫本がいい。(追加されているヴィレバンの話が最高のバカミスなので、絶対文庫版を読んでほしい。)

14歳の女の子が100人以上死ぬ話だが、タイトルについて「100個の方法で殺す」わけではないということは明言しておきたい。それを期待して読んだらガッカリすると思うので、念のため。でも100人以上は死ぬ。(大事なことなので二回言っておく。)

私のイチオシは『少女ミキサー』だ。タイトルから何となく察せてしまう性格の悪い方もいると思うが、その通り、女の子が巨大ミキサーで粉砕される話。
しかしここで書かれているのは、か弱い女が虐げられる姿ではなく、意志の強い人間共がどうやって窮地を脱するかという知的なデスゲームだ。恐らく白井智之が描きたかったのは、少女の陵辱シーンというよりは、意志と殺意の強さだろう。
彼女達が掴み取った結末をお楽しみに。

『「少女」殺人事件』も推している。これはあまりにもバカすぎるバカミスでありながら、今の白井智之の「ロジックで殴る勢い」を感じられるものになっているので、そちらもぜひ。


お前の彼女は二階で茹で死に

高級住宅地ミズミズ台で発生した乳児殺害事件。
被害者の赤ん坊は自宅の巨大水槽内で
全身を肉食性のミズミミズに食い荒らされていた。
真相を追う警察は、身体がミミズそっくりになる
遺伝子疾患を持つ青年・ノエルにたどりつく。
この男がかつて起こした連続婦女暴行事件を手がかりに、突き止められた驚くべき「犯人」とは……!?

タイトルがとんでもないが、当然の如く中身もとんでもない。奇病、奇人、差別、性交、下品、スラッシャー、なんでもありの小説であり、人によってはかなり嫌悪感を抱いてしまうような気持ちの悪い事件が詰まっている。逆に言えば、このあたりの単語に心躍る方にはうってつけだろう。
一応言っておくと、ミミズ人間ならぬムカデ人間に想いを馳せた方もいるかと思うが、流石にあそこまで不快じゃない。安心してほしい。

連作短編集で、中身は大きく4つの話に分かれているのだが……単なる短編ではない。

話の密度は濃く、全てが全ての前座で、どこからが作者の性癖でどこからが伏線なのか境目がない。それほどに張り巡らされている。「作者の性癖だろう」と思ったシーンが、謎を解く手がかりになっていることなんてザラにある。
気持ち悪い先には知的快楽が待っているので、ぜひ恐れずに読んでいただきたい一冊。

文庫版の表紙はとてもファンシー、単行本はグロ匂わせなので、お好きな方をどうぞ。文庫版は登場人物紹介が加わっているのでお勧め。

これも余談だが、ここらへんから登場人物の名前で遊び始めている印象がある。登場する刑事達の名前がオリヒメ、ヒコボシ、オシボリ…………。意味がわからない。

(2022.10.4 編集)

そして誰も死ななかった

覆面作家・天城菖蒲から、絶海の孤島に建つ天城館に招待された五人の推理作家。しかし館に招待主の姿はなく、食堂には不気味な泥人形が並べられていた。それは十年前に大量死したミクロネシア先住民族・奔拇族が儀式に用いた「ザビ人形」だった。不穏な空気が漂う中、五人全員がある女性と関わりを持っていたことが判明する。九年前に不可解な死を遂げた彼女に関わる人間が、なぜ今になってこの島に集められたのか。やがて作家たちは次々と奇怪を死を遂げ、そして誰もいなくなったとき、本当の「事件」の幕が開く。驚愕の本格推理。ミステリ界の鬼才が放つ、新世代の「そして誰もいなくなった」!

前提として、そして誰もいなくなったを筆頭とした孤島ミステリを何作か読んだ上で手に取ることをお勧めする。というのも、この本は長編にして本の約半分のページが推理パートであり相当濃密な多重解決を堪能する話となっている。その推理をする上で、ミステリでの鉄板の思考みたいなことをしているので、ミステリを読み拗れてきたあたりで手に取るのがベストかと思う。

本文に出てくる文章のほぼ全てが伏線になっている、とんでもない作品でありながら、それを解決編で語りすぎないという美徳を持ち合わせているので、何度も読みたくなる。(逆に言えば、読みながら読者も推理して納得していかないと、話についていけない。)
そしてこの世界観だからこそ生み出せたラストで、余韻に浸れること間違いなし。

ミステリ読みにとっては、タイトルは勿論だけれども、孤島、謎の人形、集められた全員の共通点、連続殺人……というところから『そして誰もいなくなった』を連想せずにはいられないだろう。
しかしオマージュどころか、白井節は炸裂しているのでご安心を。どんな名作だろうが、どんなに使われてきた設定だろうが、白井智之にかかれば独創性の塊のようなミステリが出来上がる。その才能をぜひ感じ取っていただきたい。


【そして傑作の連続へ】

ここからの作品を見逃してはいけない。

というのも、これ以降から今に至るまでの作品は、作品ごとにおそらく「この本の中でやりたかったこと」が全て大幅に異なっている。(気がする。)
「白井作品は全部、エロくてグロくてロジックがすごい!」と言われるが、この先はそんなもんじゃない。それはもう当然のスキルとして、さらに伏線の張り方を変えてみたり、キャラクター性を変えてみたり、そういった変化が見られる。新刊が出るたびに「どこまで成長する気なんだ」と興奮を抑えられない。

今の白井智之作品が一番面白い。
胸を張ってそう言える作品群になっている。


名探偵のはらわた

稀代の毒殺魔も、三十人殺しも。名探偵vs.歴史的殺人犯の宴、開幕。推理の果ては、生か死か――。悪夢が甦る――。日本犯罪史に残る最凶殺人鬼たちが、また殺戮を繰り返し始めたら。新たな悲劇を止められるのはそう、名探偵だけ! 善悪を超越した推理の力を武器に、「七人の鬼」の正体を暴き、世界から滅ぼすべし! 美しい奇想と端正な論理そして破格の感動。覚醒した鬼才が贈る、豪華絢爛な三重奏。このカタルシスは癖になる!

この作品が生まれた経緯については、恐らく後に刊行される『新世代ミステリ作家探訪』シーズン2(インタビュアー若林踏氏)に収録されると思うので、割愛する。
なかなか面白いので、もし今後発売されたら読んでいただきたい。

この小説では、過去の犯罪者の魂が現世の人間に取り憑いてしまうという、これまた特殊設定ミステリになっている。タイトルからも、この設定からも分かる通り、明らかに映画死霊のはらわたに被せているだろう。

数々の事件、白井智之ならどう解釈をつける?という問いに真っ向から挑んだ作品だ。特に収録されている『津ヶ山三十人殺し』は圧巻で、実際に起こった事件と作中の事件を比べると、「そういう角度から説明をつけるのか」と感心させられる。
(といっても、私はまだ20代半ば故に事件の概要を知らなすぎたので、後から調べて気が付いたのだが。その経験を踏まえると、恐らく事件について少しでも調べてから読んだ方が100倍面白い。)

グロテスクな描写はだいぶ抑えているため、そこに抵抗があった方にはおすすめ。キャラクター達も(ここは作品の生まれた経緯と関わってくるのだが)なかなか個性があり、過去作以上に命が吹き込まれた描かれ方をしているので、万人に勧めやすい作品だ。


ミステリー・オーバードーズ

満腹になると推理が冴え渡る探偵アレックスが、ある日突然、母親とともに姿を消した。3カ月後、アレックスの元助手で小説家のティムは、パブでギャングの親玉ホルヘを見かける。かつてアレックスとティムは、アフリカでホルヘの怒りを買い、九死に一生を得ていた。アレックスを攫ったのはホルヘなのか?(「グルメ探偵が消えた」) 嫌悪か、恐怖か、悦楽か――脳を揺さぶる白井智之ワールド! 5つの美味しい本格ミステリー。

『グルメ探偵が消えた』のあらすじしか書かれていないが、5編全て間違いなく傑作な、食に関する短編集。
白井智之は長編向きの作家だと思っていた方々に、ぜひ一読いただきたい。その現状認識はきっと覆る。

収録作をまとめると……
『グルメ探偵が消えた』はシンプルに謎が解けるのにオチがとてつもなく面白い。
『げろがげり、げりがげろ』はタイトルの通り最低な世界だが、異世界転生ものに喧嘩を売るような刺激と、感動する結末に涙。
『隣の部屋の女』はこれはあまり他の短編では見ないタイプの技巧。比較的普通の世界線
『ちびまんとジャンボ』は虫の大食い大会と拷問が過激。なのに真っ当に推理はする。

最後の『ディティクティブ・オーバードーズ』は傑作だ。何もあらすじを話せなくて申し訳ないが、この短編最大のギミックを帯にもあらすじにも明かしていないところを見ると、私もここでは黙っておくべきだろう。
ぼかして言うと、前代未聞の状況で推理をしている。白井智之がいくらロジックの鬼だからと言って、ここまでできるとは思わなんだ。是非読んで、脳を痺れさせていただきたい。

ただ単に短編の寄せ集めではなく、それぞれ仕掛けたかったギミックが違うことがよくわかる短編集。
白井智之のテクニックを語る上では必読に違いない。

ちなみに表紙は『少女を殺す100の方法』の方と同じだが、話に繋がりはないのでご安心を。いきなりこれから入っても大丈夫。


死体の汁を啜れ

豚の顔をした人間が死んでいる――
こんな死体、あり!?
ならず者たちが、異常すぎる死体の謎を追う
若き鬼才が描く、本格ミステリの新世界!
この街では、なぜか人がよく殺される。
小さな港町、牟黒市。殺人事件の発生率は、
南アフリカケープタウンと同じくらい。
豚の頭をかぶった死体。頭と手足を切断された死体。
胃袋が破裂した死体。死体の腹の中の死体……。
事件の謎を追うのは、推理作家、悪徳刑事、女子高生、そして深夜ラジオ好きのやくざ。
前代未聞の死体から始まる、新時代の本格ミステリ!

変わった死体が好きな人、必読。

あらすじにもある通り、普通ではあり得ないような死体がたくさん出てくる連作短編集。それらの死体に徹底的に合理的説明をつけていく執念が恐ろしい。死体が先か、トリックが先か……何から考えればこれが出来上がるのだろう。

死体は凄惨だが、登場する探偵役のキャラクター達はとてもコミカル。このアンバランスさが癖になり、気が付けば夢中で読み進めてしまう。過去の白井作品は、比較的人物の愛らしさというものを排除して(人間味がないわけではない)書かれているが、これはかなりキャラクター性が強い
例えばやくざの秋葉は、さまざまな職についた結果「深夜ラジオを聴ければ人生それで満足なのに…」とメンタルを病みやくざに転職した。とんでもないが、読めば彼の考えに筋が通っているのがわかるし、そこに愛着が湧いてくる。

短編それぞれは、ギャグのようなものもあれば、存分に多重解決をするものもあり、比較的シンプルに謎が解けるものもあり、白井智之の技巧を堪能できるものとなっている。

特に注目していただきたい技巧は、伏線の張り方。
恐らく作者自身、自分の文体の特徴を客観視できているからだと思うのだが、伏線の場所が初期に比べてもかなり巧妙かつ読者に強烈なインパクトを与えるものになっている。
特徴的な文が後々重要な役割を果たす快感を何度も味わえるはず。


名探偵のいけにえ

病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。
奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか?
圧巻の解決編一五〇ページ!
特殊条件、多重解決推理の最前線!

Welcome to Joden Town!

白井智之の過去最高傑作。私のレビューなんかに触れている場合じゃない、絶対に読んだほうがいい。死ぬまでに読んだほうがいい。
『名探偵のはらわた』の姉妹編にあたるが、読んでいなくても大丈夫。いけにえからでいい。それでいいから早く読んでいただきたい。

強烈な伏線による推理の連発。読む前から怯むかもしれないが、150ページは苦じゃない。ロジックの鬼に150ページ存分にいたぶられる天国だ。

「ロジックがすごいのも、伏線がすごいのもいつものことじゃん」と白井智之に慣れきってしまった方々、大丈夫。その慣れさえも超える。ネタバレになりそうなので理由は書けないが、前人未到の推理劇をお楽しみに。

ちなみにカルトミステリが好きな方にも、『ミッドサマー』を思わせるこの異色なジョーデンタウンを気に入っていただけるはず。地獄へようこそ。


独断と偏見のランキング

グロくないトップ3

1. 名探偵のいけにえ (健全)
2. 名探偵のはらわた (健全)
3. そして誰も死ななかった (グロくないけどキモい)

このロジックがすごいトップ3

1. 名探偵のいけにえ (傑作)
2. 東京結合人間 (何が起こったかわからない)
3. おやすみ人面瘡 (多重解決の真骨頂)

読む人を選ぶにも程があるトップ3

1. お前の彼女は二階で茹で死に (品がない)
2. 少女を殺す100の方法 (グロい)
3. ミステリー・オーバードーズ (本気で理解しようとすると難解)

深読み考察好き向けトップ3

1. ミステリー・オーバードーズ (語らない伏線多すぎ)
2. 死体の汁を啜れ (美しい謎の提示)
3. 東京結合人間 (難解すぎる)

表染の好みトップ3

1. 名探偵のいけにえ (傑作)
2. 死体の汁を啜れ (私の性癖に刺さる)
3. ミステリー・オーバードーズ (傑作)
 東京結合人間 (同率) (一生理解できん)



後記

お読みいただきありがとうございました。
「全てをベタ褒めする洗脳されたファンみたいにならないようにしよう!」と思ったら、偉そうな書き方が乱発してしまいました。
しかも全部一人で書くとなると、語彙がないのがバレる。解像度が低いのもバレる。
予防線の言い訳みたいですが、明らかな真実なので……本当にごめんなさい。
後学?のために、他の方が書いた全作レビューがあれば教えてください。どう書けば上手に伝えられるのか知りたいです。

レビューをするにあたって何作か読み直したのですが、どれも読んでいて楽しかったです。レビューを書いている時間も楽しかったです。次こんなに楽しい思いをするのはきっと20作記念レビューを書くときなので、長生きしようと思います。

これを読んで、白井智之作品を手に取る人が増え、作品を好きになる人も増えたら嬉しいなと微力ながら祈っています。良い白井智之ライフを!