午前五時の殺風景

表染という、ミステリとホラーを好む社会人が書いています。日々言葉が死んでいく。

名探偵のいけにえ ※ネタバレ有感想

とりあえず誰かとこの話をしたくて仕方がなかったけれど、話す人がいなかったので一人で書いています。つらい。

『名探偵のいけにえ』の話をごりごりにネタバレしていきます。未読の方はこのページを閉じましょう。


表紙とタイトルと帯

りり子の前に、信者の死体(しかもジュースと同じ紫色)とジョーデンさえも捧げられているように見える。この時点でラストを暗示しており、いけにえ感満載だ。

更には帯には「探偵は論理を武器に、カルトの盲信に立ち向かう」と書かれている。大塒がロジックを武器にジョーデンタウンで究極の二択を突きつけたことを指しているのだろうが、これほど的確な表現もないだろう。

なぜ私達は真相に気付けないのか

壮大な目眩しをされているようだった。
全ての推理の伏線、頭の中に入っていたはずなのに、全く結びついていなかった。あんなに堂々と伏線を張っておきながら、なぜ私達は白井智之の掌で遊ばれてしまったのか?
いつくか例を挙げて振り返ってみたい。

まずはルイズの遺書。
冒頭で挿入されていた手書き文字。堂々と提示されているのもかかわらず、なぜこれが最後の推理に出てくることに気付けないのか。
冒頭だったからだ。これが作品のもっと中に仕込まれていれば、謎解きの資料の一環だと思うだろう。序盤にあることで、"あくまで付録"かのように思わせている。

次にWの病気。(これは察した人もいそう。私もそう。)
『前日譚』では明らかにそれと関連付きそうな事件が示されているのに、気付けない。これは"探偵コンビの活躍例"と思わせることで逃れている。しかも最後に古本の謎を残したことで、この事件はクローズしたかのように思わせている。ストーリーが繋がっているが故に、気付けない。
さらには英字の看板が逆さまになるトリックの伏線としても使われている箇所なので、そのためだったのかなと思った読者もいるだろう。

次にタイトル。
『名探偵のいけにえ』という題から、ラストの集団自殺の偽装は推測されてもおかしくないのだが、冒頭に自殺のシーンを書いていることによって「毒で集団自殺したってことで確定かな」と読者に思わせている。
凄惨な現場を描いて読者の興味を引きたかったわけではなく、これもミスリードだったと思われる。

次にサイレントレター。黙字
謎解きの前まで何度かこのやりとりが出てきたから、印象に残った方も多かっただろう。白井智之は日本語すらトリックに使うのだ。小説を書く以上、英語の名前もカタカナ表記せざるを得ない。
この小説内では、日本からガイアナに飛び立ってはいるが、探偵も助手も英語が話せる設定なため、日本語と英語についてあまり区別がされないまま書かれている。こちらとしては読みやすいことこの上ないので助かるのだが…それも仕掛けのうちということか。

最後に、二択を提示することで逃げ場をなくす手法。
これはミステリというより文学的な伏線のような気がするが。
大塒がp338で「余所者の推理を聞かせてやろう」と言ったところで、察して鳥肌が立った読者も多かっただろう。しかし、これほどまでジョーデンタウンにとって地獄な二択を突きつけるとは思わなかった。
多重解決はほとんどの場合、前の説を棄却して新しい説を唱える。白井作品もそういうパターンの話が多い。だからこそ騙される。
今の場合、信者達の盲信に寄り添う残酷な優しさを振り翳し、二択を選び取れるようにしている。(多重解決というか、多並行推理というか。)

振り返ると、ヒントの提示はあからさまなのに、全て上手い具合に隠匿され過ぎている。
プロット段階でなのか、編集者の方のアドバイスなのか……恐れ入った。

カルトホラーの匂い

『ミッドサマー』の香りがぷんぷんした。思ったより怖かった。

病気が明らかに治っていないのに笑顔な900人。いつ殺されるかもわからないくらいには治外法権な村。脱出の術なし。
カルトホラーの定番の要素を詰め込み、代わりに白井智之特有のコミカルさやエログロは抑えめに書かれている。作品の雰囲気が大切にされていたのがとても良かった。

ミッドサマー以外にもイメージした作品があるならぜひ知りたい。

隠された後日談

後日談(二)は目次には書かれていない。更にどんでん返しが起こることを意図的に隠蔽していたとしか思えない。白井智之から読者へのドッキリサービス? 
ありがたく驚かせていただいた。

伏線の仕込み方

以下の作品をご存知だろうか?
この本に理想の伏線の仕方が書かれているのだが、それが本作と完全に一致しているように感じた。
この作者は、いけにえ関連の感想をRTしている。

そこで、白井智之のブログだ。刊行に寄せてコメントが上がっている。
白井智之 Shirai Tomoyuki
と、いうことは……?


エロとグロだけではない

ここは本当に声を大にして言いたいのだが、白井作品はグロくてエロくて不謹慎で気持ち悪いことが特徴として挙げられがちだけれども、きっと白井智之はこれらの要素を抜いても面白い最高のミステリを書ける。それをこの『名探偵のいけにえ』が完全に証明してくれたと思う。(私の感覚がバグっていたら申し訳ない。)

ただ一つ残念なのは、これだけ面白い作品を読んでしまったので、また次回作へのハードルが上がってしまったという事。

とんでもなくこの上なく最大級に期待して、次回作待ってます。(一ファンより。)